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季刊誌―エルベテーク

2020年 春季号 巻頭言 子育ての優先順位とエルベメソッド12項

第18回セミナーの質疑応答から

「受け入れ・応じる姿勢」が最優先

 最近、いろいろな保護者の方と話して改めて感じることのひとつが、子育ての優先順位の大切さです。裏返せば、たくさんの情報に囲まれた保護者の多くが、子育ての優先順位を取り違えたままになっているのではないかと思うのです。
 間違ったやり方ではなくても、優先順位が明確でなければ、熱心にやらなくてもいいことに時間と労力を費やしてしまい、やるべきことが後回しにされる事態になるからです。結果として、子どもたちの望ましい成長に結びつかず、いじめや不登校、モラルや学力の低下などの原因のひとつになっているのではないでしょうか。
 今年2 月に開催されたセミナー「実例から知る、『発達の遅れ』が気になる子どもの教え方」第18 回でも同じことを感じました。セミナー参加者から事前に寄せてもらった質問のひとつですが、「幼少期、学童期、思春期それぞれの段階で、発達がゆっくりな子に対して親がやってはいけないことは?」。4 歳・年少の保護者の方からのものです。
 正直、この質問を最初読んだときには少し驚きましたが、当日、次のような内容をお話ししました。「『親がやってはいけないことは』は一言で言うと、教えることを諦めて教えないということだと思います。大切なことは、根気よく教え続けていくことですね。教えないことには何ひとつ始まりませんから」
 むしろ、「親がしなければいけないことは?」という問いのもとで接し方・教え方を考えるべきだと思うのですが、この保護者の方はそうではなかったようです。周りからの「ありのままに受けとめて」「○○してはいけない」という情報に振り回されたからなのか、教えることについて躊躇しているように見受けました。
 しかし、よく考えてみればわかるように、「発達がゆっくり」ということは、大人の目を見て話し聞くことができない、言葉の理解ができないなど、いろいろな部分で子ども自身に力不足があることを意味します。私たちの指導指標【エルベメソッドの12 項】を念頭に置きながら、次のように強調しました。「たくさんの課題があるから結果として発達がゆっくりに見えるだけの話です。まずは『受け入れる力・応じる姿勢』を育てることが最優先です。『ゆっくり』が先ではありません」
 要するに、改善すべき課題にいち早く気づき、「このままではいけない」「必要なことは教えていかなければならない」と考え、心配な課題をなんとかして乗り越えようとする親の姿勢・努力とともに、なにを教え育てるのかその優先順位を見極めることが子育てのポイントだとお伝えしたかったわけです。
 時間の経過とともに自然に子どもの課題(力不足)が改善されたり、遊びのなかで効果が出るのならば、誰も苦労しません。そうでないからこそ、教育があるのではないでしょうか。

「教えれば、必ずできるようになる」

 子育ての優先順位を取り違えてしまう……。その落とし穴は別の質問の際にも感じました。5 歳・年中の保護者の方が会場から質問されたものでした。
 講師として体験発表されたM さんの息子さんに聴覚過敏の傾向があったという報告を聞いたうえでの発言になります。「私の子も頑張っていて、いろいろ成長しているなと思うのですが、どうしても音をシャットダウンする聴覚過敏があり、異常に反応してしまい、取り乱してしまうところがあります。なにか良い方法があったら教えていただきたいと思います」とその保護者の方は質問されました。
 たしかに、M さんの息子さんは運動会のピストルの音や花火や自動車の音に反応する、いわゆる聴覚過敏の傾向をもつ男の子でした。入学後、初めての運動会では耳を塞いだまま徒競争に臨み、よろよろしながら走ったとのことです。しかし、小学校の高学年になるにつれ、その課題を乗り越えていきました。その様子についてM さんはセミナーの席でこう説明されました。「小学校3 年生、4 年生になってくると、大きな音が嫌だけれども、なんとか我慢できるようになり、耳も押さえなくなりました。そして、5 年生、6 年生になると、私が見てもわからないほど、我慢できるまでになりました」。そして、こう付け加えました。「(自分の課題を乗り越えた)息子は『大きな音は嫌で、ドキッとするけれど、大丈夫。我慢できるよ』と言っていました」。
 子どもの不適切な言動を前にすると、つい「変えられないものだ」「特性だ」と捉え、改善できない原因として「聴覚過敏」などといった説明に目を向けがちです。
 しかし、M さんが淡々と話したように、教えることが子育ての最大のポイントになります。M さんの言葉を使えば、「教えれば、必ずできるようになります」です。わが子の聴覚過敏の傾向を心配しながらも、むしろ、優先順位として一番大切な「応じる力」「受け入れる力」に着目し、家庭でもきめ細かな接し方・教え方を続けました。大人の目を見て話し聞く姿勢を整えさせながら、宿題などの学習課題をやり遂げさせていったのです。
 その積み重ねが彼に「応じる力」「受け入れる力」、そして我慢強さを育み、聴覚過敏の傾向も乗り越えることができました。その事実を自分の体験として知っているM さんだからこそ参加者の方へ向けて適切な回答ができたのだと思いました。Mさんの言葉です。「諦めずに教え続けていくこと。(本人が)わかっているのか、わからないのか、(不適切な言動を)やめられるのか、やめられないのか、その時は私のほうもわからないことがすごく多いわけですね。でも、言い続けること、教え続けること。親のほうが諦めないことが大切ではないかと思います」
 私からも、聴覚過敏をめぐる問題点と対応策についてアドバイスしました。「聴覚過敏、感覚過敏、視覚過敏など、なにか問題があるとそうした言葉で済ませたくなるかもしれません。しかし、もしそのような傾向が見られたとしても、『いまのままでは困るぞ』と思って、どう軽減していくか、教えていくか、我慢させていくか、そう考えながら子育てしていけば、大丈夫だと思います。なぜかというと、私たちの教室にはそんな子どもたちがたくさんいるからです」
 その他、事前の質問の中に同じような質問がありました。「私(母親)がいると、わがままになり言うことをまったく聞きません。夜中に何度も叫んだり起きたりして睡眠障害が治らないです」というコメントです。5 歳・年中のお母様のようです。
 このコメントについても、子どもの言動に親のほうが振り回されているのではないかと感じました。ここでは、「睡眠障害」という言葉が邪魔をし、「わがまま」への対応があいまいになっているように感じます。
 特に母親という存在は、子どもにとってみれば、なんでも許してくれる存在に見えます。ですから、母親は感情的に気分次第で対応してしまいがちです。少しでも機嫌がいいと、大目に見たりします。些細なことであっても、何が良いのか悪いのかを曖昧にせずきちんと伝えながら接していく必要がありますが、それは面倒な作業なので、ただ認めそのままで終わっているケースが多いのではないでしょうか。そんな思いから、私は効果的な接し方・教え方の基本について次のようにお話ししました。
 「最近は『ほめることが大事だ』と言われますけれども、何をほめるのかは具体的に教えられず、ほめることだけが目的化している社会になっているような気がします。『上手だね』『できたね』『よかったね』『すごい』では、子どもは何がいいのか、さっぱりわかりません。たとえば、『最後までお母さんの目を見て話を聞いてくれたね。それでいいよ』というように、何が良かったのかを具体的に伝えながら教えていく必要があると思います。子どもが親の目を見て話を聞いていれば、子どもの表情から話の中身をどの程度理解しているかよくわかります。それを積み重ねていくことです。いまの子どもたちは、大人の、その場しのぎのほめ言葉にうんざりしている、ととらえておく必要があります」
 体験発表されたM さんも「わがままにさせたままではいけないのかなと思います。なんでも言うことを聞いていると、言い方は変ですが、子どもになめられてしまう。『しなくてはならないこと』と『してはいけないこと』をきちんと教えていってあげればいいと思います」と指摘していました。

Mさんの12年間の学習の成果

 ところで、M さんの息子さんの現在ですが、3 月、公立高校入試に合格したあと、4 月の入学に向けて「よりいっそうがんばる」と両親に話し家庭学習に取り組んでいるようです。3 歳3ヵ月から12 年間の学習を通して獲得した真面目で穏やかな性格は、これからの高校生活を充実したものにするだろうと確信しています。
 彼は3 歳の時には「中等度の自閉症」「広汎性発達障害」と診断されました。言葉の遅れ、多動、かんしゃく、こだわり、偏食、周りとのトラブル、いじめなどがありました。また、小学校(普通学級)入学に際し付き添いの条件を言い渡されたため、M さんは約10 ヵ月間、登校から下校まで一日中、付き添いを続けました。こうして「教えれば、必ずできるようになる」と考えた両親のサポートによって確かな実力をもつ高校生に成長したのです。
 Mさんによると、現在、彼は朝ひとりで起き、支度をして学校へ向かうそうです。生活面においては基本的に自立していて、会話に困ることもほとんどなく、自ら毎日2、3 時間の時間を学習にあてているとのことです。
 この1 年間(中学3 年生の1 年間)の伸びも素晴らしく、苦手だった短距離走の克服をめざして、周りからアドバイスを受けながら必死に練習しました。そして、運動会では陸上部所属の生徒よりも速く、一番でゴールしたそうです。しっかり努力・練習する習慣が学力、体力、生活いずれの面でも成果を出している様子が伺えます。
 セミナーのタイトルは「『あきらめなさい』と見放された子が、教育の力で飛躍する」でしたが、まさにその通りです。淡々と発表する母親M さんの表情にも自信があふれているように感じました。


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