エルベテーク
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季刊誌―エルベテーク

2019年 秋季号 巻頭言 教室とともに子どもたちも成長する

成長の基盤を身につけさせる練習と学習

親と子どもの努力がすべて

 今年12月でエルベテークは25年目に入ります。この間、教室で学んだ子どもたちも大きく成長し、社会人になったり、大学生になったりし、将来の人生への道筋を見通せるようになったと感じています。
 この季刊誌にもそうした子どもたちの成長の記録が多くの保護者の方々からお寄せいただくようになりました。穏やかな性格、何事にも諦めずに挑戦する姿勢、真面目な態度、それらは、元を正せば、わが子のハンディを前に「これではいけない。なんとかしなければ……」と考え少しでも効果的な指導法を探そうと腐心した親、実際に探し出してからはアドバイスや指摘にしたがって家庭でコツコツと子どもに教え続けてきた親、そしてそれに応えるように一生懸命に頑張ってきた子ども、そうしたそれぞれの長年の努力の賜物だと言えると思います。
 前号(2019年夏季号)の「保護者の声」では、そんな一人である、社会人3年目を迎えた男性のお父様Tさんが幼児期からの成長記録をまとめてくれました。朝、一人で起き、5時半にはもう会社(福祉関係)へ向かうために自宅を出ている息子さんの様子を印象深く報告されています。
 いまから19年前の7月、ご夫婦一緒に私どもの教室へ息子さんを連れてやってきたのは年長の時でした。幼稚園で簡単な指示も聞けず、全体行動がまったくとれない子どもの姿を見て心配になり、いくつも医療機関に相談した後、教室の存在を知ったのです。入会当初は、すぐ泣き、靴を左右反対に履いても気づかず、ひとりで鼻もかめませんでした。両親が「無理強いはいけない」とアドバイスされ、教えることをためらっていたからです。
 Tさんの報告にもありますが、「個性だと思って受け入れましょう」とさんざん言われ続けた中で、「ほんとうにそうなのか、何か違う道があるのではないか」と考えるようになったことが大きな転機になり、その後の子育ての原動力となりました。
 彼は学習開始から3ヵ月が経過した時点で、泣かなくなり、相手の話を聞くようになりました。それでも、覚えることやコミュニケーションなどで大きな課題を抱えていました。当初、小学校(普通学級)の授業についていくことが難しい状態で、忘れ物もよくありました。時間をかけ練習してもなかなか覚えられないので、「もうこれ以上は無理だ」とTさんは絶望感に陥ったことも。
 しかし、そんなTさんを支えたのが奥様でした。「私はあきらめない。あなたがやめるなら、私一人でもやる」とTさんに伝えたのです。再びモチベーションを高め、家庭学習に取り組む日々が続きます。「また三人四脚で勉強を再開する、そういうことの繰り返しでした」と書かれています。

「練習・学習するしかない」という自覚

 Tさんが回想されているように、結局、課題を乗り越えるためには練習・学習するしか方法はないのです。それによって、子どもに「わかること」「できること」が少しずつ増えていきます。物事に諦めずに取り組む力と習慣が身についていくとともに視野が広がるように思われます。
 Tくん自身もそうでした。3年生、4年生になるとようやく少しずつ成果が目に見えてきました。野鳥の観察会に一人で準備し参加したり、妹さんに関する作文を一人で書いたりできるようになったのです。そして、大学時代には飲食店でアルバイトをしたり、交友を深めたり、運転免許を取得したり……、そんな青年に成長しました。
 発達上の課題をもった子どもの保護者からよく、「友達がなかなかできない。心配だ」という声が聞かれます。しかし、Tくんのように、まず「応じる姿勢」や「学ぶ姿勢」といった基本的な力と習慣を身につけることによって、周りがそれを認め評価してくれようになるから、周りの方との交流が始まるものです。そして、友人も。
 Tさんは「周りの言うことを受け入れる素直さと根気強く取り組む姿勢、この2つの基本動作をエルベテークによって彼が身につけていたことが、いろいろな場面で窮地から救ってくれたように思います」と述べていますが、これこそ成長のポイントであり、練習・学習によって得られる宝物だと言えると思います。

「年中氾濫しているような川」

 Tくんと同じように、教室で学び、しかるべき力と習慣、そして性格を獲得し、いまでは社会人になった卒業生の中にH さん(23歳、社会人1年目)がいます。季刊誌の中で何回も紹介してきたので、ご存知の方が多いと思われますが、Hくん自身の回想がなかなか素晴らしいです。それは、『発達障害の「教える難しさ」を乗り越える』という本の「あとがき」にあります。彼は現在に至る過程について喩えを交えながらこう要約しています。「幼少期に自閉症と診断されていたと打ち明けても信じてもらえないことが多いくらいだ。自他ともにその事実があったことを忘れる日々を過ごしている。だが、確かに昔そうだったのである。自分の思いを口にすることができず、嫌なことがあると暴れる、落ち着きがなく一時も座っていられないという時期があったのだ。そう考えたうえで、自分の人生をたとえるならば川と言えるかもしれない。年中氾濫しているのを何度も何度も治水することで、ようやく人が住めるようになった川。それが私のこれまでの人生と言えるかもしれない」
 彼は大学時代にアルバイトながら教室で4年間スタッフとして後輩を教え、多くの保護者や子どもたちから尊敬を集めました。将来は彼のようになりたい、と。

「応援したいと思える人間に育っている」という見通し

 社会人になった2人の成長記録を紹介しましたが、共通していることは「ハンディがあるから」と諦めずに、幼児期から家庭学習に力を入れた点です。その様子は、同じく前号の「保護者の声」で紹介したお母様Y さん(息子さんは小学5年生)の報告にも見られます。こちらは子育ての現在進行形です。
 幼児期の心配については先ほどのTさん夫婦と共通する部分がたくさんあります。周りから「息子さんの気持ちをわかってあげて」「無理をさせないでください」と言われるだけで、具体的に成長を促す教え方をアドバイスされませんでしたが、Yさんご夫婦は、ハンディを少しでも乗り越える道を選びました。そして、教室に通うようになり、小学校(普通学級)に入学。授業についていくのが精一杯で、学校生活での問題行動も残っているなか、大きな危機を迎えました。小学4年3学期の始業式のある朝でした。Y くんが登校を嫌がって暴れたのです。お母様はすぐに教室へ連絡を入れてくださいました。こちらからは「学校には遅れることだけ伝えて必ず連れて行くようにしてください」と助言。休むと明日に尾を引くことが心配されたからです。お母様は助言通り行動してくれました。
 当日、教室に連れてくるように伝えていたので、ぐずぐずする彼を連れて川口に到着しましたが、大声で泣き叫びました。その彼に対して、その日、頑張って学校に行けたことをほめました。するとピタッと泣くのをやめ、明日は学校に行くと返事したのです。そばで見ていたY さんは、「息子は憑き物が落ちたような穏やかな顔になっていました」と感じられたそうです。
 それがひとつのきっかけとなり、彼は自分の気持ちをコントロールする(反省したり、自分を元気づけたりする)術がわかったようにこれまで通り前向きに学校生活を送り始めました。まだまだ失敗することが多いものの、学習を中心にした生活に充実感を持つようになっています。Y さんの言葉をみなさんと共有したいと思います。「コツコツ努力をし、注意してもへこたれない、人から応援してもらえる人間になって欲しいという願いを胸に頑張ってきましたが、今、息子は少なくとも私達が応援したいと思える人間に育っていることを嬉しく思います」

練習・学習の力を軽んじない

 練習や学習を遠ざけていては、子どもにハンディを乗り越えさせる道筋はなかなか見出せないのではないかと思います。世の中には「無理に勉強しなくてもいい」「勉強なんて役に立たない」などと言われる方がいますが、それは不遜な見方ではないかと感じます。「社会生活を送る上で必要な、最低限の力をわが子に身につけさせたい」と考え、練習や学習の力をけっして軽んじない、そんな態度が求められるように思います。
 最後に、最近の風潮を見て感じることを記しておきます。ひとつはいつのまにか家庭学習の意義が希薄になっている、いや忘れ去られつつある状況ではないかという点です。現在、幼児から小中学生の多くの子どもたちが、毎日のように学習塾をはじめさまざまな稽古事にいそしんでいます。なかには、勉強は塾でするものと思っている親子も少なくありません。同様に、発達で心配な子どもたちについてもさまざまなサービス(保育所・学童、体操、英語、絵画、ピアノなど)が受けられるようになっています。
 いっぽうで、家では、食事・入浴・睡眠の他は娯楽の時間がほとんどで家庭学習の習慣を育てるのが後回しになっているようなケースが心配です。事実、高校生の半数近くが家でまったく勉強していないと報告されています。家庭は親子にとって一番密接なところであり、規則的な生活習慣・学習習慣を養いながら、将来に役立つ基本的な力や善悪の判断力などを身につけさせる大切な練習の場のはずです。
 もうひとつ感じるのは、発達上の課題にどう向き合い、考えていくかということです。なかなか改善できない部分があると、どうしても「周りの人は分かってほしい」という主張を強めがちです。たしかに理解してほしい部分はあるにせよ、やはり、社会で生きていく以上、自ら努力する部分を忘れてはいけないのではないでしょうか。先ほど紹介したH くんは本の中でこう話しています。「僕の場合、反復練習で力をつけると、自分の考えが変わりました。『周りからハンディを理解してもらおう』というんじゃなくて、僕のほうから努力して社会のルールや常識に合わせる努力をしていかなければならない、と思うようになりました。自分の道は自分の力で切り開きたいからです」
 この言葉こそが教育・学習の本質ではないでしょうか。ハンディを抱えているいないに関わらず、「自分の道は自分の力で切り開きたい」と考え努力する子どもを一人でも多く育てたいとつくづく思います。


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