Oさん 中学2年生 (年少4月入会 自閉傾向)
兄弟みんなが大きく成長するきっかけとなった学習のこと
息子を成長させる具体策
3人兄弟の末っ子である息子の成長に不安を感じ始めたのは、息子が2歳になる頃でした。わずかにあった発声・発語が消え、表情が乏しくなってきました。家の中をつまさき立ちで歩き回る、名前を呼ばれても無反応なのに玄関ドアのわずかな開閉音は聞き逃さず外に出ようとする、絵本は同じページをずっと見続けるといった奇妙な行動が見られました。外出の際は飛び出しの危険があったので、常におんぶか抱っこをしていました。
市の育児相談でアドバイスを求めると、「周りとの比較は良くない。個人差の範囲」と言われ、発達の手助けになるかもしれないと、未就学児対象の幼児教室への参加を勧められました。参加してみると、全く指示に応じず、すぐ教室を飛び出して時間中ずっと園庭を好き勝手に走り回っていました。約半年間参加しましたが、息子の様子は参加当初と変わらず、焦りと不安はますます強まってきました。そして、発達の専門医から「自閉症・発達遅滞」と診断されたことで、これは治らない病気だと思いました。当時、私は看護師として病院に勤務し、忙しい日を送っていました。
そんな時、偶然書店で『自閉症児の学ぶ力をひきだす』を手にすることができました。それまで「何かいい手立てはないか」と多くの本を読んできましたが、参考になりませんでした。しかし、この本で息子と同じ症状の子ども達が指導によって変わっていくことを知り、息子も変われるかもしれないと強く思い、すぐにエルベに電話をして相談に伺いました。 その相談中、息子は動き回るので、静かにさせようとお菓子を与えました。すると「その行為は改めましょう。してはいけないこと・してほしいことを根気よく教えることが大事です」と言われました。お会いしてわずかな時間しか経っていないのに、その場しのぎの対応を繰り返している普段の生活をズバリ言い当てられたようでした。恥ずかしくなりました。しかし、するべきことは何かをはっきり教えてもらい、息子を成長させる具体策があると思いました。2006年3月3歳3ヶ月のときエルベに入会しました。
指導法を比較できる余裕も
当時は茨城県に住んでいて、片道2時間半かけて週1回川口へ通いました。電車の中を動き回り、途中でぐずって歩かなくなるなど移動はとても大変でした。しかし、教室で教えてもらった「息子の目を見て話す」「短く指示を出す」「外出時は必ず手をつなぐ」ことを実践していくうちに指示が通るようになり、電車内で静かに過ごせるようになっていきました。日常生活がとても楽になっていました。
すると、エルベの学習開始から3ヶ月が過ぎた時、突然福岡県へ引っ越すことになりました。成長の兆しが見えていたので退会してしまうのは非常に残念でした。息子の成長にエルベという道しるべは不可欠という思いは日毎に強まっていきました。意を決し、エルベでの学習を続けたいと、夫と夫の両親へ伝えました。義父は本を熟読してくれており(付箋がびっしりと貼ってありました)「親は子供のことに責任を持たなくてはならない。必要と思うことはしてみるといい。応援するよ」といってくれました。両親をはじめ家族の協力のもと、それから10年間、福岡より月1回泊りがけで学習を続けています。
年少の頃、少しでもためになるのではないかと考え、一時的に療育施設にも通いました。しかし、「無理をさせないでください」「好きなことをさせてください」「偏食は仕方がない」などと、教えることがよくないことだと言わんばかりの対応に、これでは成長は難しいと考え半年でやめました。このように判断できたのも、エルベを知って指導法を比較できるようになっていたからと思います。知らなければ鵜呑みにしていたと思います。
重要になった家庭学習
月1回の教室になったことで、ますます家庭での学習が重要になりました。この時、私は仕事をしていなかったので、アドバイスに基づき1回20分間の学習を朝・夕行いました。息子が年長と小学1年の時は、午前中のパートを始めました。息子の帰宅後、手洗い・荷物の片付けといった生活習慣をきちんとさせてから学習を行いました。息子の見通しが立ってきたので、小学2年の時からはフルタイムでの就業に変わりました。そして学習時間は夕食後となりましたが、今までこれをずっと続けてきました。
この10年間は決して望ましい成長だけを続けてこられたわけではありません。成長の兆しを感じると私もつい気が緩んでしまって、息子の手順を軽んじた行動をそのままにしてしまうことがありました。また、学年が上がっていくと学習内容が難しくなり、ついていくために学習の量が増えるわけですが、問題の正誤に気を取られ、指示に応じる姿勢が崩れていることに気づかないで過ごしていた時がありました。そんなときは、教室で指摘を受け、修正することができました。月1回の学習日は日頃の指導のあり方を振り返る機会です。そして、また頑張ろうと親子で気を引き締めるいい機会となっています。
学校との連携では毎年、エルベに相談の上作成したレポート『指導上配慮していただきたいこと』を担任へ渡しました。低学年の頃は定期的に学校へ出向き、様子を聞くようにしました。仕事の都合もあり、出向くことが難しくなってくると、連絡帳のやりとりで様子を教えてもらいました。エルベへ行く日は学校を早退していたので、学校へ迎えにいった際、日頃の配慮に感謝を述べ、短時間で様子を聞くようにしました。時には、「学校は学校のやり方があります。家庭でのやり方はあくまでも家庭内でしてください」と言われたこともありました。エルベに相談すると、こんな時こそ家庭で力をつけていきましょうとアドバイスをいただきました。
息子は、「言い間違いがあって、からかわれるから、学校ではあまり話さない。でも、授業中に独り言が多いと注意される。つい出ちゃう」と話していて、中学入学時点においても大きな課題がありました。そこで、兄が所属していた部活動の顧問は細やかに観察・指導をしてくださる方でしたので、担任のほか部活動を通して学校との連携をとっていこうと思いました。入学したての頃は、試合会場で息子は皆とはぐれてしまい、部員全員で捜したこともありました。
同級生は教科の課題提出は期限や提出先など声をかけてくれました。先輩からも気にかけてもらい、学校内で安心できる居場所になっています。
課題に応じた援助の不足を反省
そして、高校受験のための勉強も必要という夫の意見で、週2回塾に通わせることにしました。部活動、エルベの宿題、教科の宿題を考えると負担になると思いました。すると案の定、時間に追われる生活になり、帰宅が午後7時で、学習を始めるのは午後8時からになりました。ヘトヘトで帰ってきて気持ちの切り替えができず、始めるまでに時間がかかりました。息子は苦手と思うと途端に姿勢が崩れてしまいます。徐々に成績は下がっていきました。時間割は行事によって全く変わる日もあり、黒板に書かれる変更を書き留めず、リコーダーなど忘れ物が多くなっていました。
息子が通っていた塾では家庭への具体的な指導はありませんでした。中学1年の期末、塾から電話があり、習熟度テストの結果、理解度の低いクラスへ移籍になるとのことでした。通わせることで満足し安心してしまっていたと猛省しました。その場で退会を申し出ました。
塾を退会後、すぐにエルベの学習があったので、今後の家庭学習、受験対策など不安に思っていることを相談しました。「しっかり学習できる環境づくりをお願いします。教科の勉強は解答書もありますし、こちらで手順はお教えします。一緒に頑張りましょう」と言っていただきました。中学生になったのだからと自主性のある行動を期待するばかりで、息子の課題に応じた適切な声かけや援助が不足していたことに気づきました。
その後は、忘れ物がないように教科ごとバンドで固定するようにしました。次の日の準備は帰宅後すぐ行い、不安な場合は友達に聞くようにしました。息子と決めた学習開始時間は必ず守って始めました。学習開始時には、まずその日の学校での出来事を聞きます。うまくいかなかったことがあっても注意するのではなく、次回の対応方法を考える機会となるよう心がけました。定期テストについては、エルベからは範囲に即したプリントを準備していただいているので、集中して仕上げるように注意して行いました。
家族の成長とこれからの決意
そのようにしっかりと準備をしてテストに臨めたので、期末テストはとても満足いく結果でした。当たり前のことですが、やるべきことをしっかりやらせることが大事だとあらためて思います。
学習ではしっかりと成果を残せている次男ですが、コミュニケーション力はいまもって大きな課題です。最近クラスメートから「勉強以外のことは全然できない」と面と向かって言われたそうです。思いやりの欠如した言葉に落胆と怒りはありますが、現実として受け止め、息子の力を向上させるためにこれからも親子で努力していこうと思います。
このように何か問題が生じた時はエルベにすぐ相談にのっていただきました。息子のことだけでなく、上の2人の子供のこともです。
息子の話から少しそれてしまいますが、娘は中学2年の秋(息子は当時年中)、部活動で同学年の女子3人から無視され続けるといういじめにあいました。先輩の3年生が部活を引退した後、緊張感のない練習内容について、改善の提案をしたことがきっかけのようでした。たまたま見にいった練習試合で気づきました。試合中だというのに、娘にボールを回さない、話しかけても無視するなど、今でもあの光景と娘の表情をはっきりと覚えています。いじめの中心人物に直接注意したい怒りを抑え、エルベに相談しました。そしてアドバイス通りすぐ担任と面談しました。そして、娘は学校内に頼れる人ができ、安心したようでした。
しかし、相手の子たちの態度は改まりませんでした。辛そうにしている娘を見て、担任は陸上部へ転部を勧めました。強肩を生かして投擲の選手となり、なんと全国大会に出場できる実力をつけました。進路については、「私のような生徒を助けられるような先生になりたい」と大学は教育課程を選びました。終始冷静な対応ができたのはエルベの助言のおかげです。
また、3歳上の当時小学6年の兄の学習や生活面のことで悩んでいたときも、川口に弟の学習のとき一緒に連れていきました。兄のほうは勉強がきらいで、投げやりな態度、いらいらして友達とうまくいかず、親に反発している状態でした。本人と面談していただき、直接アドバイスしてもらいました。その折の感想を「緊張感があった。だめなものはだめだと言われびっくりした」などと今でも話します。おかげでその後、第一志望の県立高校に入り、今は医学部へ進みたいと励んでいます。
「こんなふうになるなんて」と子どもたちも私たちももみんな思っています。
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