Kさん 高校3年生(年長4月入会 自閉傾向)
前号に引き続き、「保護者の声」シリーズの新しい試みとして子育ての<過去と現在>に焦点を当てた保護者による成長の記録を紹介します。
エルベテーク 2016年 夏季号より
Kさん(中学2年生)のお母さまより
私立、公立に関わらず、家庭学習では基本を徹底すること
不安な日々のなかでの子育て
娘は生後8カ月頃より尋常ではない夜泣きが始まりました。検診で他の子と比べてはいけないと分かりつつ、成長も遅いと感じていました。夫や周りからも成長には個人差があるのだからと言われ、自分でもそうだなあと納得するようにしていました。
ところが夜泣きはひどくなる一方で、あまり声を出さず、初歩も1歳4カ月と遅く、検診時に相談しても「そんなに心配ないでしょう。様子を見ましょう」とのことでした。娘は歌や踊りが大好きだったので、就園前の幼児が通う音楽教室へ入会しましたが、そこで他の子との違いを目の当たりにすることとなりました。座っていられない、興味がないと辺りに置いてある楽器やおもちゃに手を出すなど。それでも好きな曲が流れると誰よりもリズミカルに身体を動かし本当に楽しそうにしていましたので、しばらく通いました。
そして、日が経つにつれ、言葉は出ているもののわずかな単語と数少ない二語文だけで、おうむ返しもありました。相変わらずの夜泣きとそれに加え音に過敏になり、食事中は席を立ちダイニングテーブルの回りをグルグル走り回り、注意しても何度も繰り返していました。
そんなある日、テレビで発達障害の子供の日常生活を紹介する番組を見て、娘と同じ様な行動や食事の仕方に驚き、夫と二人で顔を見合わせました。私は、「発達障害かも」と思いもよらない不安に襲われ、夫は即、専門書を買い求め、3件の専門病院を受診しました。2歳4カ月の時でした。医師に、「話せるようになるのでしょうか」と尋ねると、しばらく私の顔をじっと見つめ、「娘さんは重い方なので、私たちと同じように会話をするのは無理です。しかし、今後療育をすれば、簡単なコミュニケーションは取れるようになります」と告げられました。そして、病院の療育と保健センターの言語指導をしばらく受けることになりました。
3歳になり、年少からなるべく早く集団に入れた方が良いというアドバイスもあったので、幼稚園を探し、面談や見学に娘を連れていきましたが、ほとんどが入園を拒むような返答をされてしまいました。半ば諦めていたのですが、最後に訪問した幼稚園の理事長が、「どんな子でも可能性はあるのだから、早くうちの幼稚園に入園して、子どもの世界を広げてあげなさい」と受け入れて下さり、3年間同じ担任の先生というご配慮までいただき運が良かったと思います。
「必要な何か」に出会えたと実感
とはいえ、幼稚園でコミュニケーションや社会性、言葉の獲得などの多くの課題は解決できる訳がありません。思うように成長してくれないと悩んでいた年長になる直前、夫が次々と購入してくる専門書を読み漁る中で、『自閉症児の学ぶ力をひきだす』に出会いました。これは私たちが娘に何か足りない、何をすれば良いかと、日々考えていたことが、まるで喉につかえていた物が取れたように共感できる内容でした。すぐにでも行ってみたいと夫と話し合いましたが、ここで躊躇したのは、教室まで2時間以上かかることと、娘が人混みを嫌い、乗り物酔いも強かったため果たして通えるだろうか? それでも夫は、やってみなくてはわからないと、最初は一人でエルベテークに見学に行き、後日三人で相談会へ足を運びました、
当日、エルベテークでは、丁寧に教育方針を説明してもらい、娘の力もその場でよく見極めた上で「全力で応援していきますので一緒に頑張りましょう」と力強いお言葉を頂戴しました。有難く、やっと探していた「必要な何か」に出合えたと実感しました。と同時に、今後の成長を期待できると感じ、夫も私も気持ちが明るくなったのを思い出します。
そして、毎週火曜はエルベテークへ通うので休むことを幼稚園に了承してもらい、年長の4月から学習が始まりました。心配していた通塾の道程も、最初こそ大変だったものの徐々に慣れ、その頃から少しずつ夜泣きも減り、してはいけない事、するべき事を親の方もきっぱりと娘に伝えることにより、理解できることが増えていったように思います。
小学校入学を前に、市の保健センターから夏休み前に就学相談へ行くよう何度も言われ、カウンセラーからは「 普通学級に入学させるのは親のエゴであり迫害です」などと断言され悩んでいました。そこで、エルベテークに相談しましたら、「力がついてきているので、小学校は普通級へ入学されたらいいですね。いや、そうされるべきです」と言っていただき心強く思いました。そして、就学時健診では何も指摘されず無事に普通級に入学する運びとなりました。
適切な接し方を担任に説明
入学式当日は、エルベテークのアドバイス通り担任へ「 指導上ご配慮いただきたいこと」を書面でお願いしご挨拶しました。
しかし、授業が始まると座っていられない、休み時間になると何処かへ行ってしまい戻ってこないなど、下校時迎えに行くと報告がありました。4月の授業参観の2日前の連絡帳に、「光のパワーで授業中の離席を減らしていっています」と書かれてあり、「光のパワー」とは何か、すぐに学校へ尋ねたところ、半透明の衝立2枚で娘の右側と後側の座席を囲い左側は担任の机をピッタリくっつけてその前に先生が立ち授業をしているとのことでした。
私は驚き夫に伝え、すぐにエルベテークに相談しましたら「ご主人が学校へ出向き、今すぐ止めてもらうよう、担任へ申し出た方が良いでしょう」とアドバイスをいただきました。翌朝、夫が学校へ出向き、担任に申し出ましたら、「私の一存では衝立を外すことはできないので教頭に確認します」とのことでした。教頭が特別支援の研修を受けたばかりで、落ち着きのない子供は周りの刺激が入らないようこのようにすると良いと担任に指示したものでした。そこで夫は教頭に、きっぱりと特別扱いしないように伝え、何とか衝立を外してもらい翌日の授業参観に他の子と同じように机を並べることができました。
当日は、娘に授業態度の注意点を再確認し登校させ、離席することなく一日を無事終えました。すると担任から「お母さんが観ていたので頑張ったのでしょう」と言われ、しばらく一緒に登校し、下校まで付き添うことになりました。すると担任は、娘の落ち着いた姿に、どのように指示を出したら良いか、伝える時の声の大きさなど具体的に教えてほしいとおっしゃいました。私は「 目を合わせ、『します。しません』と毅然とした態度で指示して下さい」とお願いしました。娘も少しずつ担任の指示が分かるようになり付き添いは2週間程で終了し、3学期には「みんなと変わることなく授業に取り組んでいます」と報告を受け安心しました。
2年生で担任が変わり、最初の授業参観では驚くような光景でした。離席こそしないものの上履きを脱いだり、身体を真後ろに向け参観中の保護者を見回したり非常に目立つ行動でも、担任は注意一つせず授業を進めていました。
また、クラスの子供達に様子を聞くと、娘だけは授業中でも一人床に座り込みクラス文庫の本を読むことが許されているなど、本人のしたいことをさせるのが良いと思い込んでいるような指導でした。再三「 ご配慮いただきたいこと」をお願いしましたが、残念ながら理解を得られず、関わり方でこんなにも子供の姿勢が変わってしまうのかと悔やみました。それでもエルベテークで「家庭では毅然とした態度を崩さず本人に力をつけていきましょう」と応援していただきながらより一層家庭学習に力を注ぎました。
3年生で再び1年時の担任に変わり、娘の学校生活はあるべき姿に戻っていきました。三歩進んでは二歩下がる。時には三歩四歩下がっても揺るぎない基盤を積み重ね努力していけばどんな事でも乗り越えられると再確認できました。その後も多々問題が発生してもエルベテークに相談しながら過ごすことができました。
6年生になり学校側から、中学校は小学校のようにはいかないと、普通級へはすんなり入学できないような動きがありました。夫とも何度も話し合い、やはり普通級で学ばせたいという気持ちは決まっていましたので、エルベテークに相談し私立中学校の受験に挑戦することにしました。この時も「 一緒に頑張りましょう。全力で応援します」と言っていただき本当に心強かったです。そして1年間学校選びのため東奔西走し、娘もエルベテークで今まで通り学校の学習を続けながら受験対策も導いてもらい、よく頑張ってくれました。お陰様で無事に合格し入学することができました。
子どもの姿が信頼関係を築く要因
入学にあたり、生活環境がすべて新しく変わるため本人が順応するのには時間がかかるであろうと覚悟はしていたものの、やはり大変な困難を強いられることになりました。
入学後早速、授業では教科書の他に資料集にワークブック、プリント用ファイル、ノートは授業用、課題用などと一教科につき何種類も準備が必要でした。娘は、この作業に戸惑い、結局授業中に揃っていなかったり、ノートをとる量も多く写しきれないうちに消されて困り、その結果、集中力は欠け落ち着けない状態となり、学校側からは「私立ですから生徒は横一線でスタートできなくては困ります」と注意を受けてしまいました。
そこで準備すべき物は教科毎にゴムバンドで括り忘れ物がないように工夫すること、 ノートとりは板書が始まったらすぐに追って写し、乱雑な字は家庭学習で書き直すこと、授業態度は毎朝確認して登校することなど具体的に実践し、「基本を徹底しましょう」とエルベテークよりアドバイスを受け、学校生活のリズムが整ってきました。また、家庭学習においても基本の部分に力を入れ、漢字や英単語、基本計算と繰り返し練習を続け、定期テスト前は毎日長時間勉強をしました。
そして、学校とは相談を重ね、何事も慣れるのに時間がかかることをご理解いただき、専科の先生方にも簡潔に声がけしていただけるようご援助を仰ぎ、「 連絡を取り合って見て参りましょう」とのご返答をいただくようになりました。
現在、娘は元気に登校しています。2歳4カ月の時、医師から「 私たちと同じように会話するのは無理です」と言われたのがウソのようです。これも家庭学習で基本を徹底することで、学校生活、学習面に成果が現れ、子供の努力し成長する姿が学校との信頼関係を築く要因になっていると感じます。合わせて、私立、公立に関わらずどんな学校環境でも、信念をもってご協力が得られるよう、根気よく対応する親の責任に変わりはないと思います。
最後に、エルベテークに出合え、学習面・精神面ともにご指導・応援していただき、季刊誌や懇談会で共感できるご家族の存在が励みとなり、目的意識を持ち日々過ごせることに感謝いたしております。
高校3年生になったKさんのお母さまより
春から大学生になる娘のこれまでの努力
子ども自身に気づかせる接し方を増やす
小学生の頃とはガラッと変わった中学生活にも慣れてきましたが、引き続き日々の学習面では、課題やノートの整理、提出物の確認など親の手助けは欠かせませんでした。声かけをしないと取り掛かりが遅かったり、宿題も忘れてしまったりと支援は必要でしたので何とか自立して学習を進めることができないだろうかと悩んでいました。
エルベテークに相談すると声かけを少しずつ減らし、声かけの仕方も変えてみるなど工夫する方法を教えていただきました。具体的には、「今日は宿題あるの? 早くやりなさい」というのをやめて、「今、何をするのかな?」と自分で気づかせる方法を教わり、実践しました。また、一人で課題に取り組ませると途中で止まってしまい進みません。これを克服するには、最初に時間を決めてタイマーをかけ問題を解くことを提案され、家庭でも取り組みました。繰り返し練習するうちに学習面だけでなく、生活面においても少しずつ変わっていきました。
友達とのトラブルを乗り越える
このように学習は、順調に進められるようになってきましたが、学校では、コミュニケーション不足による友達とのトラブルが見られるようになりました。先生にも自分の考えをうまく表現することができず、親がたびたび学校から呼び出されることが出てきました。家庭でも注意すると大声を出したり物を投げたりするようになりました。その都度、エルベテークに相談して、学校との対応の具体的なアドバイスを受けました。また、役員を引き受け、先生方とのコミュニケーションをとりやすくしました。そのため学校との話し合いもよい方向に進みました。家庭での不適切な行動については、エルベテークの先生とそのようなことはしないという約束をし、実践できているか毎日電話をかけてもらったことで少しずつ落ち着いてきました。約束をすることは今でも続けています。
大学受験に挑戦するまで
大学受験に至るまでには、高校を卒業すれば十分だろう、そこまでする必要はない、と周囲の否定的な意見もあり、何度も挫けそうになりましたが、学べるチャンスがある以上、挑戦するだけはしてみようとあきらめず希望を持ち続けました。その間も受験に必要となる評定値を上げるために、定期試験の勉強に力を入れました。
すると、担任からは、「欠席もせず、試験の準備もしっかり取り組んでいるので、大学への推薦をしない理由はありません」と言っていただき、志望校も決定することができました。始めは、指定校推薦一本でと思っていましたが、近年指定校推薦でも不合格のこともまれにあると聞きました。担任から、「推薦一本では不安なため、一番早く始まる総合選抜(旧AO入試)で受験し、指定校推薦の受験はあくまで安全なすべり止めで」と言われ、その方向で挑戦することになりました。
それからは、受験の準備を着々と進め、夏休み中もエルベテークと学校の担任のご協力のもと、面接練習や小論文添削を繰り返し何度も見ていただき、親子ともども夢中で取り組んでいた感じでした。その甲斐あって、最初に受けた総合選抜入試で合格通知を早々と受け取ることができました。
娘がここまで成長することができたのも、エルベテークでの学習を軸に、人の話をきちんと聞く、ルールを守る、言動をコントロールする等の練習を繰り返しながら努力し続けたことが結果として表れたのだろうと思います。
最後に、エルベテークの先生方にはコロナの大変な時期にも関わらず、いつも親身に指導、応援、協力してくださり感謝申し上げます。大学に入学してからも苦労は尽きないと覚悟して、いままでの経験を生かし、親子で努力して頑張っていく所存でございます。