Aさん 小学2年生 (年中5月入会 発達遅滞)
「地道にコツコツやっていけば、道は必ず開けます」という言葉を頼りに
「知的障害」という診断を受けてから
息子は1歳6ヶ月検診のとき、言葉の遅れなど発達に問題があると言われました。そして、市の「カウンセリング」に1年間通った後、専門医から「知的障害」との診断を受けました。早速、保育所に診断結果を報告し、支援の先生が付く障害児枠の制度を受けられるように申請しました。また、療育園も勧められ、週に1回通うようになりました。内容は運動や制作などを2時間ほど行うのですが、保育所でやっていることとあまり変わりがなかったように思えます。また、年に何回か、親と心理の先生との懇談もありました。視線が合わないことを相談しても「目を見て挨拶させる必要はありません」と先生から言われ、息子の将来に役立つようなヒントを得ることができませんでした。言葉や行動面の遅れ、手先の不器用さなどとても心配でした。
この時期に図書館で障害児教育に関する本を片っ端から読みあさりました。そして代表の本『発達の遅れが気になる子どもの教え方』に出会い、年中の5月からエルベテークに通い始めました。
「今改善しなくてはならないこと」を確認して
フルタイムで働いていた私は教室へ通うために、仕事の調整・同僚への配慮などできるだけ手を尽くして、エルベテークへの送迎の時間を捻出していました。そんな状態で、連日の残業を言い訳にして教室の宿題など家庭学習や接し方がおろそかになりがちでした。「できる範囲で家庭でも練習をしてください」と先生方はいつも心配してくださっていましたが、「保育所では生活慣習や集団行動を習得し、勉強はエルベテークでやっている」と、私たちは任せっきりになっていました。 ところが、年長になると保育所から、「障害児枠で支援の先生が付いているので、当然就学相談を受けて小学校は特別支援学級へ進むというのが通常です」と強く言われました。私たちは漠然とできるなら普通級に行きたいと考えていたのですが、保育所の意見に反論すらできませんでした。そのときに、就学やその先について整理して具体的に考えなくてはいけないことにやっと気づきました。主人と話し合い、通常級に行けるようにできるだけのことをしようと気持ちを固めました。 通常級に通うなら親の付き添いが条件になるかもしれないと思いました。共働きで多忙であることがネックでしたが、「1~2年、もしくは数年、二人でこの子のサポートに徹するのはどうか?」という主人の一言に賛同し、私は退職することに決めました。私たちと息子にとってこの就学は人生の岐路であり大きな試練が待ち受けているだろうと考えました。そこで、かけがえのない数年間にするために学習は主人と二人で見ることに変わりはありませんが、学校関係は主に私が対応して息子をサポートしていくと覚悟を決めました。 そのことを代表に伝えると、あらためて一緒に頑張りましょうとおっしゃってくださいました。そして、今改善しなくてはならないこと、言語能力と基礎学力をのばしていくことなど、家庭での具体的なやりかたと就学相談や学校との打合せの進め方までアドバイスしてもらいました。こちらが緊張するほど真剣な面持ちで話をされたので、武者震いがしたのを覚えています。
問題行動には協力して対処
小学校に入学してからは、毎日2時間かけて、エルベテークの宿題→学校の宿題に取り組んでいましたが、やはり勉強でたいへん苦労しました。担任の先生には「指導上ご配慮していただきたいこと」というレポートを渡し、その後も連絡帳でやりとりをしました。そして、次第に息子も学校に慣れ、教室で楽しく過ごすようになっていきましたので、また私たちは順調だと思い込み安心してしまいました。 すると、3学期の公開授業のときです。授業中息子は自身の股間をずっといじっていました。息子は私の怒った表情を見るとすぐに止めました。私は恥ずかしくて、驚いて、情けなくなり、その場から離れたかったのですが、その問題行為が再開して、さらに多くの保護者の方々に見られたらと思うと、じっと息子に怒った表情を送り続けることしかできませんでした。一緒に参観していた主人は、帰ってから息子を厳しく叱りました。そしてエルベテークに報告して今後の対処を相談させてもらおうと話し合いました。家では「その行為はやってはいけないこと」と毎日確認して、エルベテークでは「授業中はどうすべきか」についてもきちんと教えていただきました。その結果、注意を受け入れ、家庭ではその行為はまったくなくなりました。 そして2年生になり、担任が変わりました。また、「指導上ご配慮していていただきたいこと」のレポートをお渡しし、1年の公開授業のときの行為もお伝えし、そのようなことがあれば厳しく叱ってほしいとあわせてお願いしました。明るく若いお母さんの先生で了解してもらい、息子も先生との勉強が楽しいと言っていましたので安心していました。 ところが、初夏の運動会も終わった後、いつもテストの直しをしてくださっているのでお礼を連絡帳に記すと、「相談したいことがある」という返事が返ってきました。もうびっくりしてなんだろうと心配になり、先生との面談の前に代表にご相談しました。「きっと学習面のことだろうから、特に問題ないだろう。もし万が一何か問題行動について指摘されたら、冷静に、丁寧に、慎重に対応しましょう」と指南していただきました。
「ストレス」の一言で済ませていいのか?
担任の先生との面談の内容は、息子が股間を一日中ずっと触っている、音楽の時間は目の前で先生がピアノを弾き、皆で鍵盤ハーモニカを吹いているときも吹かずに触っているとの事。私が呆然としていると、「その行為は1年の3学期から習慣化していて、ストレスなんだと前任者も言っていました」とおっしゃいました。「家ではそんなことはまったくしていないので、先生が気づかれたら厳しく叱ってほしい」とお願いすると、「でもね、お母さん、ストレスなのに無理に止めさせるのがいいんでしょうか。止めさせるより、原因をなくしたほうがいいです。止めさせると今度はお友達を傷つけたり、自傷行為に移行するかもしれませんし、お母さんの思いはわかりますが。もちろんお子さんもゆっくりだけど成長していますが、うーん、無理だと思います」と。 私はその言葉にびっくりしましたが、すぐに代表の言葉を思い出し、「いずれにしても人前でしてはいけない行為なので、そこは厳しく指摘していただきますようよろしくお願いします」とだけ伝えて、早々に退室しました。息子には障害があるから苦手な勉強を無理強いしなければストレスはないだろうというのが先生の経験からの答えなのでしょうが、とてもショックでした。 その帰りに学童に預けている息子を迎えに行くと、元気のない私を見て、「僕が勉強できないから先生に怒られちゃった?」と心配してくれました。そのときがまんできず涙が出ました。こんなに可愛い私の息子を、「ストレス」の一言で済まして、きちんと教え導かずに可能性を止めようとしていることに憤りを覚えました。と同時に、代表の「どんなときでも冷静に、丁寧に、慎重に対応しましょう」という言葉を忘れてはいけないとほんとうに実感しました。 その後、同じような行為があると先生から伺った時は、主人から連絡帳に、「人前でしてはいけない行為なので、厳しく指摘していただきたいと私からも強く希望します」と書いてもらい、両親は同じ考えであることを先生にアピールしました。今後も、どんな「やってはいけないこと」があっても、私たちは厳しい態度でやめさせ、息子の将来を妨げないよう努力していきます。 とくに就学前から今までの2年、気になることがあればすぐにエルベテークに相談・エルベテークの宿題・エルベテークの「見て・聞いて・指示を受け入れる」を日常的にひたすらやってきました。覚えるのは苦手でしたが、新しい漢字などを覚えるスピードがアップし、学校での小テストで100点を取ることも増えてきました。しかし、少し前の単元をすぐ忘れてしまうので、反復練習も網羅しているエルベテークの宿題は欠かせません。
多くの卒業生のように私たちも
その重要性は、先日冬の学習会の懇談会の際、エルベテークの卒業生で現在大学生である羽山さんのお話の中にもありました。羽山さんも、「とにかくエルベテークの宿題を毎日まず一番にする。反復練習がとても大事だ」と。羽山さんが小中学生の頃の家庭学習の取り組み方を聞いて、とても参考になりました。実際の卒業生の話ですから、同じように毎日毎日やっていけば、うちの息子も必ずや、と気持ちを奮い立たせてくれました。 また、羽山さんは、エルベテークでの学習の成果として、「人生に広がりがある」ともおっしゃっていました。その意味は、主観ではあるがと前置きされ、「人の痛みや相手のことを思うからこそ、嬉しいことなどがより深く感じられるのではないか」と。この卒業生の言葉を聴いて、息子をエルベテークで学習させて間違いないと心底から思いました。 知的な発達に問題のある子どもの教育に関する事例は多くありますが、こうしたほうがいいというものばかりで、その結果どんな将来(現在)を過ごしているか明確に書かれているものがほとんどありません。あっても、たまたまではないかと思わずにはいられないもの、ましてや、周りと気持ちの良いコミュニケーションがとれているとはとても思えないもの、しっくりこないものばかりです。 しかし、エルベテークには羽山さんはもちろん、立派に世の中ですべきことをしている卒業生がたくさんいらっしゃいます。これは、非常に心強いです。これから進路で当然悩むでしょうが、「地道にコツコツやっていけば、道は必ず開けます」と言い切れる背景がある教室なのです。 また、先生方は深い愛情で子どもたちに接してくれています。子どもたちの成長を振り返って、「よく頑張っているなと、胸が熱くなります」とおっしゃる先生方が、エルベテークにはいます。先生方も私たちと同じような思いで子どもを見てくれているのだと思うと、本当に救われます。エルベテークの教育方針にある「~自分自身で世界を広げていけるように」。多くの卒業生がそうであるように、息子もそうなるように私たち夫婦も頑張ります。
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